「プロ野球の名脇役」です

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著者はお馴染みの二宮清純さんです。
二宮さんのスポーツノンフィクションは
どれも面白いけど、この本も非常に
面白かったです。

4番やエースといったスタープレーヤーではなく
常に陰で寄り添うような縁の下の力持ちに
スポットライトを当てております。
登場するのは、そんないぶし銀のプレーヤーばかり、
なんて思いますが実際は谷繫元信さんだったり
大野豊さんだったり掛布雅之さんといった、
普通なら「えっ?なんでこの人が脇役なの?」
なんて思う人も出てきますが、そのあたりは
ちゃんと説明されております。

谷繫さんの場合は
長い選手生活をおくり2000本以上打った大打者ですが
規定打席到達者の中で最低打率を記録した事は何度もあり、
名球会の入会者でも生涯打率は最も低いです。
そんな谷繫さんは、やはり世界最高といわれるキャッチングの
上手さに定評があります。

大野さんは「100勝100セーブ」を達成しており
長いプロ野球の歴史でも8人しか達成者がいません。
超がつくぐらいのスター選手ですが、
中継ぎ、先発、抑え、そしてまた先発と、請われれば
なんでもこなす、その真面目で献身的な姿勢が
まさに名脇役といったところ。

掛布さんこそミスタータイガースなのですが
テスト生同然のドラフト下位で入団し
そこから努力を重ね4番に上り詰めた、
その過程というか、脇役から主役への流れに
スポットライトを当てております。

グッとくるエピソードは数多くあります。
今あげた掛布さんの場合は、やはり3番バース、
4番掛布、5番岡田の最強猛虎打線が強く印象に
残っております。
バースは常々、「4番のカケ(掛布)の前の3番だからこそ
俺はここまで打つ事ができた」と掛布さんに
感謝してたそうです。
やはり4番に打たれるというのはチームとして非常に
ショックなんですよね。だから4番と勝負する前に
3番のバースに勝負を挑むので、バースのほうも
打ちまくる事ができた。これが弱い4番なら
「バース敬遠して4番で勝負」なんて感じだけど
掛布と勝負したくないからバースと勝負せざるを得ない。
バースとしては、「掛布が強い4番で良かった」と
感謝してたんですよね。

同じ事が、V9時代の王と長嶋にも言えます。
いわゆるONです。
あの江夏豊さんが言ってました。
「O(王)もN(長嶋)も怖くない。
 怖いのはONだ」と(笑)
王さん自身も、「長嶋さんが4番にいたからこそ
自分が3番で思いっきり打つ事ができた」なんて。

元阪神の投手、遠山さんの話も面白い。
ドラフトのハズレ1位であり、プロ野球ではなく
社会人のほうに進む予定だったけど、
ドラフト終了後の、その日の夕方に
田舎にある遠山さんの自宅前に阪神の応援団の方たちが
大挙訪れ、自宅前で「六甲おろし」を大合唱(笑)
そんな状況で断れず、そのまま阪神に入団しました。

西武で監督も務めた事がある伊原さんの話も興味深い。
監督が現場介入したら意味がなく、現場はコーチが
仕切るものである、と。
これはビジネスの世界でも応用がききますね。
経営陣は方針を決定する事。野球の場合は監督です。
そしてコーチはビジネスなら現場の部長クラスですかね。
「監督の顔色を伺うコーチに、ろくなヤツはいない」と、
「その通り!!」と思わず膝を打つ私(笑)

個人的には元巨人の末次さんの話が非常に
印象に残りました。
まさにV9戦士です。
王さん、長嶋さんの3番4番コンビ、いわゆる「ON」ばかり
話題に上がりますが、末次さんは、その時に5番を打ってました。
とくに4番の長嶋さんの後を打つのは非常にイヤだったそうです。
長嶋さんというのは超がつくスーパースターだったので
ホームラン売っても三振しても、とにかく観客の注目を
浴びるので、長嶋さんの打席の後は、その余韻がまだ球場全体に
漂ってて、その中で末次さんが打席に入ると、
「あれっ?まだいたの!?」なんて感じに(笑)
落語でいうと、真打ちの後に二つ目が登場するようなものです。

ただ、ONの後を打った5番の末次さんですが
彼の最高の瞬間というのが泣けました。
それは、王さん、長嶋さんを塁に置いた状態でホームランを
打った時でして、ホームに還ると、あのONが待ち受けて
くれてるのだから、今でも大切な宝物として心に
残ってるそうです。
いや~、痺れました(笑)

この記事へのコメント

2025年05月10日 18:50
「真打ちあとに二ツ目」という表現は実にわかりやすい(笑)。
ですが、真打ちのあとに二ツ目が客席から万雷の拍手をもらって、楽屋で真打ちに迎えられるなんて良い図ですね。
グッときます。

2025年05月10日 19:30
しろまめさん、どうもです。

二つ目が真打ちから拍手で出迎えられる図というのは
たしかにグッときますね。
これが器の小さい真打ちなら、
「俺の後に目立ちやがって!」なんて感じだけど
そうではないところが、さすがです。
この巨人の末次選手は、今の天皇陛下も少年時代、
ファンだったそうです。
ONではなく、5番の末次選手を贔屓にするあたり、
さすが陛下!なんて感じです(笑)

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